あなたもステキよ

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あなたもステキよ〔最終章〕
 あと2.3回続けようと思っていたのですが、
突然、病魔に冒され続けることができないかもしれない
事態になってしまいました。
しかし、みなさんにたいへんご好評をいただき、自分も書くのを
楽しみにしていたシリーズですので、途中で終わるのは忍びない。
最後の落とし前だけは付けておかなければと、入院を前に最終章
をお届けいたします。


携帯が鳴った。時計は夜中の1時を刻んでいる。

ママからの電話であった。

私はとなりの家内に眼をやる。一度寝返りを打ったが起きている

気配はなさそうだ。

携帯をふとんの中に入れ、頭からふとんをかぶって声を沈めて聴いた。

「社長、ナオミが明日中国に帰ります。」と言う。

上海の支援者の病院で、治療をしている母親の病気が思わしくなく

もう長くはないらしい。帰る前に社長に会いたいので、明日の朝

アパートまで来てほしいとのナオミからの伝言であった。

数週間前兄が暴漢に襲われ、大ケガをしたばかりだというのに、

さらに母親の病気の悪化、悪いことが重なりナオミの気持ちは

いかばかりかと察する。

セントレア発13時20分MU530便、上海浦東国際空港行きに

乗るので朝9時出発すると言う。

私は、8時に家を出た。

アパートの前にはママのクラウンマジェスタが、旧型ながら

車の帝王の風格で止まっている。

その後ろへ私の愛車三菱ミニキャブの軽トラを近づけた。

この車でデートしたのかと思うと笑いが漏れ、懐かしさを感じる。

私はアパートにあがった。大きなトランクをふたつ運び出すところ

だった。

「タオカサン」その声は夜のナオミの声ではなかった。

もちろん化粧も夜のナオミではない。

二十歳の美しい女の子がそこにいた。

ナオミの胸には、昨年商工会の旅行で買った鎌倉焼きの

陶器のペンダントが谷間で揺れている。シルクの白いワンピース

に良く似合う。

店では一度も着けて出てなかった。私も今日はじめて見た。

大切に思っているナオミの気持ちがうれしかった。

家内には鳩サブレのみやげで、ナオミには鳩サブレの20倍から

高い鎌倉焼きのペンダントを内緒で贈っていた。

「鳩サブレはやはりおいしいね」と言うたびに、

私は「クッククック」と喉に詰まらせていたのを思い出していた。

車から「ナオミ時間だよ」とママの声。

「タオカサン、アリガトウゴザイマシタ。オカアサンゲンキニナッタラ

タオカサンノイルコノマチニ、キットモドリマス」と私に手を差しのべた。

私はナオミの手をしっかり握った。

その手は、職業病に侵された手ではなくなっている。

私にこころを伝える手であたが、もう二度と会うことはないだろう

とのメッセージを送っている手でもあった。

ママに急かされ、車に乗り込んだナオミの眼に光るものがあった。

それがだんだん大きくなり真珠の輝きのような、大粒の涙がいくつも

頬をつたっている。

「タオカサンハ、ステキナヒトデス。オトウサンノヨウデス。

イッショウワスレナイ」

職業病でない手を私は両手で包んだ。

ナオミは、行方不明のお父さんを私に求めていたのだ。

私は、ナオミに夢中になっていた自分を恥じたが、充実した時間

を過ごしたことも紛れもない事実、私にとって胸のときめきは、

生きている喜びであった。

ナオミが私に求めるものと、私がナオミに求めるものは違って

いても、私はナオミと過ごした時間に感謝した。

「元気でな、私もナオミのことは忘れないから」と、父親の

涙声になっていた。

「じゃ、遅れるといけないから」と、ママは車を動かした。

車は静かに私から遠ざかっていく。見えなくなるまで

ふたりは手を振り合った。朝の静けさだけが残った。

虚脱感を感じながら、大きく一息ついて軽トラに乗った。

バックをしようとサイドミラーに眼をやると、白いエスティマが

遠ざかって行くのが映っていた。
                              おわり


私は、この7月で65歳になりました。
老後をどう過ごすかを考えたとき、私はATMな生き方を
しようと思っていました。
ATMは、銀行の自動現金支払機ではないのです。
「明るく、楽しく、前向きに」生きたいものだと考えていました。
「あなたもステキよ」は、わたしの夢。
自由な国と自由が許されない国を対比して、日本のすばらしい
社会の中で、すてきな老後を送りたいと思っていたのですが、
どうも私には夢で終わりそうです。
8月6日入院デス。では、いってまいります。






| あなたもステキよ〔最終章〕 | 12:39 | comments(2) | trackbacks(0) |

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